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最高裁裁判官

2008/09/04 20:57

 

最高裁判所における裁判官は長官1人及び判事14人の合わせて15人となっています(裁判所法5条1項3項)。15人の出身は特に決められておらず、運用に任されています。現在は、裁判官出身者が6名、検察官出身者が2名、弁護士出身者が4名のほか、行政官出身者が2名、大学教授が1名となっています。この出身によって法的判断が異なることが少なくないので、各裁判官の出身母体を頭に入れておくことは重要だといえます。例えば、6月の国籍法違憲判決において憲法違反の判断に反対したのは、行政官出身の2人の裁判官と検察官1名の3名でした。

 

最高裁の裁判官の定年は70歳ですから(裁50条)、70歳の誕生日の前日に退官することになります。例えば島田仁郎長官は昭和13(1938)年11月22日生まれであるので、平成20(2008)年11月21日に退官する予定となります。再来月には新たな最高裁裁判官が任命されることになります。
 

同様に横尾和子裁判官も、平成23(2011)年4月13日まで勤めることができますが、今月で依頼退官するそうです。この方は、わが国2人目の女性最高裁裁判官ですが、出身母体は行政庁(旧厚生省)です(高橋久子裁判官も行政官でした)。最高裁は明らかにしませんが、社会保険庁の長官も務めていたことの責任をとって辞職すると考えるのが自然だと思います。年金問題で騒がれていた昨年から批判も多かったようですしね。

 

最後の大法廷での仕事は、行政計画に処分性を認めることができるか否かが争点となっている浜松市の事件だと思います。従来までは、「一定の法状態の変動を生じさせるものではない」ことを理由に行政計画には処分性が認められないとする判断が最高裁の見解でしたが(最判昭57・4・22民集36-4-705)、今回判例変更の可能性が非常に高いです。最後に横尾裁判官がどのような判断をするのか楽しみです。

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倒産処理法制

2008/08/26 16:02

 

債務者が経済的に破綻し、債務の支払いが困難となり、その活動を続行できない状態に陥ったことを「倒産」といいます。倒産状態に至った個人や会社の財産、契約などの法律関係の処理の規律を対象とする法分野が「倒産処理法」です。資本主義社会においては倒産はある程度必然の社会現象であって、これを放置すると、取立てを競う債権者間に大きな不公正を生じ、債務者に回復できない損害を生じさせるでしょう。また、その事業に依存する人たちの生活を破壊し、周辺の事業に連鎖倒産が広がるなど、社会や経済に深刻な影響を与えることにもなりかねません。

倒産状態に陥った個人や会社は、まず、裁判所以外で自立的に倒産者が債権者等と話し合いにより倒産後の債権債務関係を処理する方法を採ることが考えられます。これを「私的整理」又は「任意整理」と呼びます。裁判所の法的倒産処理手続に比べると、私的整理は、合意により債務関係が処理されるので、迅速かつ柔軟な対応ができ、コストも廉価で済みます。また、資産の劣化も防止でき、秘密保持性も高く、私的整理は従来から多くの場合に利用されてきました。他方で、債務者債権者間における合意形成は必ずしも容易ではなく、自立的な対応も一定の限界があります。そこで、裁判所という国家機関を通して実現される法的倒産処理が必要となるのです。

現在のわが国における倒産処理は、①破産、②民事再生、③会社更生、④特別清算の4つの制度があります。

①破産は、破産管財人が破産者の全財産を換価処分して金銭化し、債権者に平等な割合で配当する厳格な手続です。破産法(平成十六年法律第七十五号)によって規律される最もオーソドックスな倒産処理です。破産法は、「財産関係の適正・公平な清算」と「経済生活の再生」を目的としており、すべての法人および自然人に適用されます。

②民事再生は、債務者が確定的な経済的破綻に至る前に手続を開始し、原則として債務者にその事業経営・財産管理処分権を保持させたままで、その事業又は経済生活の再生を図ることを目的とする制度です。和議法(大正十一年法律第七十二号)に代わる民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)に規定されています。破産法同様に、すべての法人および自然人に適用されます。

③会社更生は、大型の株式会社と対象とし、利害関係人の利害を調整しながら、多数決による更生計画案の決議と裁判所の認可を経て、強力にその企業の維持更生を図ることを目的とする制度です。会社更生法(平成十四年法律第百五十四号)に規定されます。

④特別清算は、清算中の株式会社につき、清算の遂行に著しい支障が生じそうだという事情が認められる場合に開始される手続です。債権者や株主の利益保護を目的としたもので、裁判所の監督を強化し、より厳格な手続で清算を行います。会社法(平成十七年法律第八十六号)501条~574条、879条~902条に規定が置かれています。

これらの倒産法制は、基本目的によって分類することができます。「清算型」と「再建型」の2つです。

清算型倒産処理は、倒産に至るまでのあらゆる財産関係を全面的に清算して従来の経済活動に結末をつけるものであり、事業体については当然にその解体を招来します。「破産」と「特別清算」がこれに属します。

再建型倒産処理は、従来の関係を全面的に清算することなく、規模を縮小したり、増資したりして変更を加えてそのまま継続させ、債務者の経済活動を再建してその復帰を図るものです。「民事再生」および「会社更生」がこれにあたります。

「会社更生」と「特別清算」は株式会社のみを対象とするものであり、一般の個人や法人にとっての倒産処理手続は、「破産」と「民事再生」に限られます。したがって、清算型倒産処理の基本として「破産」が、再建型倒産処理の代表として「民事再生」が位置づけられることになります。なお、司法試験の「倒産法」の科目も、範囲を「破産法」および「民事再生法」にしぼっています。

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試験期間

2008/07/28 21:36

 

先週より春学期の期末試験が始まりました。今日は経済法と刑法の試験をこなしてきてもうへろへろです。

さて、明日は「法曹倫理」の試験があります。「法曹倫理」とは、法曹としてあるべき姿、道のことってところでしょうか。裁判官倫理及び検察官倫理の講義もありましたが、メインは弁護士倫理ですね。

弁護士倫理を示した法源は、弁護士法です(昭和24年法律第205号)。1条で、弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命にすることを高々と謳っています。弁護士法以外に、弁護士倫理を示したものに「弁護士職務基本規程(平成16年会規第70号)」があります。これは日弁連の規則ですので、法源ではなく、国民は直接関係ありませんが、弁護士はこれに拘束されることになります。基本的に法曹倫理は、職務基本規程の解釈問題だということができると思います。

過去3年間の法曹倫理の出題をみると、いわゆる一行問題と事例問題が各一問ずつ出題されています。

①05年度
Ⅰ【事例問題】遺産分割における弁護士倫理…利益相反、委任契約書の作成、事件受任時の説明義務、着手金・報酬の説明、一部依頼者の代理受任、預かり金の返還
Ⅱ【一行問題】弁護士に公益活動を義務付けることの可否

②06年度
第1問【事例問題】所有権に基づく建物収去土地明渡訴訟…相談、事件受任、利益相反
第2問【一行問題】弁護士倫理の特徴を裁判官、検察官、非法律専門家の倫理と比較して論述

③07年度
第1問【一行問題】守秘義務についての論述
第2問【事例問題】遺産分割における弁護士倫理…事件受任、利益相反、守秘義務

かなり難しいです。講義ではあまり解釈論をやってないような…。試験前日に初めて問題を見てびっくりしました。

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国籍法違憲判決

2008/06/06 22:01

 

おととい、最高裁判所大法廷判決が2件出されました。いずれも国籍法に関するもので、法令違憲の判断がなされましたので、国会や政府、あるいは社会一般に与える影響は大きいものと予想されます。もちろん、今後の法律学会では大議論がされ、憲法の教科書の14条あたりに記述が書き加えられることでしょう。

最高裁の判例はその日にHPにアップされるので、誰でも読めます。

平成18(行ツ)135
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=36415&hanreiKbn=01
平成19(行ツ)164
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=36416&hanreiKbn=01

まずは、国籍付与の条件を確認してみましょう。日本国民の要件は法律で定めることになっており(憲法10条)、昭和25年に「国籍法」が制定されました。日本国籍を持っている人が「日本国民」ということになります。日本国籍を取得する方法には「出生」によるものと、「帰化」によるものとがありますが、ここでは「出生による国籍取得」しか取り上げないことにします。

一番わかりやすいのが、子が生まれた時に、(法律上の)父か母が日本国民であれば、その生まれてきた子が日本国籍を取得する方法です(2条1号)。(法律上の)親が日本人なら子も日本人ということです(両性血統主義)。

代理母とか生殖補助医療とかの問題は難しくてよくわからないので置いておきますと、子供は生物学上、母体から生まれてきますから、生んだ女性がその子の法律上の母となります。分娩の事実をもって、法律上の母子関係が発生します(当たり前のことを難しく言っているだけ)。

一方、父親についてはどうするかというと、妻が婚姻期間中に妊娠した子供であれば、妻の夫がその子の法律上の父であるとされます(民法772条)。つまり両親が結婚していれば、その子の父親は、夫であるということです(夫が、自分の子供ではないと思った場合には774条の嫡出否認の訴えを家庭裁判所に提起することになる)。

簡単なことを法律的にいうと難しくなってしまっていますが、結婚している日本人夫婦の場合、その子は日本国籍を取得します(国籍法2条1号)。

2条1号によれば、父か母どちらか一方が日本国民であればいいので、父親が外国人で母親が日本人の場合でも生まれてきた子は日本国籍を取得します(例えば、父:アメリカの軍人、母:沖縄県人のケース)。また、「未婚の母」の場合でも、その母が日本人であるかぎり、法律上の父親がいなくても(認知した男性がない状態のこと。生物学上の父はいるに決まっている)、生まれてきた子は日本人となります。

そうすると、生物学上の父親が日本人で、母親が外国人(フィリピン人)のケースはどうなるでしょうか。子供は女性から生まれてきますから分娩の事実をもってこのフィリピン人が「法律上の母」となります(フィリピンに帰らず日本で出産したとします)。

①このフィリピン人の妻が婚姻(結婚)中に妊娠したのであれば、その「夫」がお腹の子の父親であるとされます(民法772条1項)。二人が結婚していれば、生まれてきた子は、出生のときに父が日本人ですから、その子(嫡出子)は日本国籍を取得します(国籍法2条1号)。②以下は日本人男性とフィリピン人女性が結婚していない場合です。

②日本人男性とフィリピン女性が結婚していなかった場合でも、男性がお腹にいる子を認知すれば(民法783条)、お腹の子と日本人男性の間に父子関係が発生しますので、出生のときに父が日本人ですから、生まれてきた子(非嫡出子)は日本人国籍を取得します(国籍法2条1号)。

③②の場合で、お腹にいる子を認知した日本人男性が、子が生まれてくる前に死亡してしまったときは、子が生まれたときにはフィリピン人の母しかいませんから、国籍法2条1号ではなく、2号が適用になります。「出生の時に死亡した父が死亡のときに日本国民である」ので、この場合でも生まれてきた子(非嫡出子)は日本国籍を取得します。

④出生後になってやっと日本人男性がその子を認知し、日本人男性とフィリピン人女性が結婚すれば、法務大臣に届け出ることによってその子(嫡出子)は日本国籍を取得します(国籍法3条)。認知+婚姻=順正(民法789条1項)によってその子は「嫡出子」になります。

⑤出生後、日本人男性は認知しましたが、フィリピン人女性と結婚する気がありません。あるいは、日本人の妻と子供がいるので、フィリピン人女性とは法律上結婚できません(民法732条、刑法184条)。日本人妻と別れてフィリピン人女性と結婚する気もありません。この場合は、生まれてきた子供(非嫡出子)は日本国籍を取得できません。父母の婚姻がなく、3条が適用されませんから。

⑥ちなみに、日本人男性が認知しなかった場合、子との間には法的な父子関係は発生しません。子はフィリピン人の母を持つだけですので、日本国籍を取得することはできません。

今回の裁判の事例は⑤のパターンです。3条には「認知」の他に「父母の婚姻」が国籍取得の条件になっているのが問題となりました。

さて、前置きが大変長くなりましたが、最大判平成20年6月4日裁判所ホームページ(たぶん民集に掲載される)を検討してみます。2つの判決はほぼ同じですので事件番号「平成19(行ツ)164」の判決文を取り上げることにします。

原告(上告人)らは次のような主張をしました。
【国籍法3条1項の規定が,日本国民である父の非嫡出子について,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した者に限り日本国籍の取得を認めていることによって,同じく日本国民である父から認知された子でありながら父母が法律上の婚姻をしていない非嫡出子は,その余の同項所定の要件を満たしても日本国籍を取得することができないという区別(以下「本件区別」という。)が生じており,このことが憲法14条1項に違反するとした上で,国籍法3条1項の規定のうち本件区別を生じさせた部分のみが違憲無効であるとし,上告人らには同項のその余の規定に基づいて日本国籍の取得が認められるべきである】

最高裁は、国籍法3条(昭和59年改正)の立法目的についてこう解釈しています。
【規定が設けられた主な理由は,日本国民である父が出生後に認知した子については,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得することによって,日本国民である父との生活の一体化が生じ,家族生活を通じた我が国社会との密接な結び付きが生ずることから,日本国籍の取得を認めることが相当であるという点にある】

そして、この目的と、3条による区別の規定との間に「合理的関連性」があるかどうか検討しています。

【日本国民を血統上の親として出生した子であっても,日本国籍を生来的に取得しなかった場合には,その後の生活を通じて国籍国である外国との密接な結び付きを生じさせている可能性があるから,国籍法3条1項は,同法の基本的な原則である血統主義を基調としつつ,日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて,これらを満たす場合に限り出生後における日本国籍の取得を認めることとしたものと解される。このような目的を達成するため準正その他の要件が設けられ,これにより本件区別が生じたのであるが,本件区別を生じさせた上記の立法目的自体には,合理的な根拠があるというべきである。】

3条の目的もクリア、合理的関連性もオッケーということは、憲法に違反しないということになりそうですが、そうはなりません。まだ続きます。

【しかしながら,その後,我が国における社会的,経済的環境等の変化に伴って,夫婦共同生活の在り方を含む家族生活や親子関係に関する意識も一様ではなくなってきており,今日では,出生数に占める非嫡出子の割合が増加するなど,家族生活や親子関係の実態も変化し多様化してきている。このような社会通念及び社会的状況の変化に加えて,近年,我が国の国際化の進展に伴い国際的交流が増大することにより,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子が増加しているところ,両親の一方のみが日本国民である場合には,同居の有無など家族生活の実態においても,法律上の婚姻やそれを背景とした親子関係の在り方についての認識においても,両親が日本国民である場合と比べてより複雑多様な面があり,その子と我が国との結び付きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって直ちに測ることはできない。これらのことを考慮すれば,日本国民である父が日本国民でない母と法律上の婚姻をしたことをもって,初めて子に日本国籍を与えるに足りるだけの我が国との密接な結び付きが認められるものとすることは,今日では必ずしも家族生活等の実態に適合するものということはできない。(中略)準正を出生後における届出による日本国籍取得の要件としておくことについて,前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだすことがもはや難しくなっているというべきである。】

3条の制定時(昭和59年改正)には、立法目的と区別に合理的関連性があったのに、現在はないと認定しています。

続けて、具体的な検討をしています。

【日本国民である父又は母の嫡出子として出生した子はもとより,日本国民である父から胎児認知された非嫡出子及び日本国民である母の非嫡出子も,生来的に日本国籍を取得することとなるところ,同じく日本国民を血統上の親として出生し,法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず,日本国民である父から出生後に認知された子のうち準正により嫡出子たる身分を取得しないものに限っては,生来的に日本国籍を取得しないのみならず,同法3条1項所定の届出により日本国籍を取得することもできないことになる。このような区別の結果,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子のみが,日本国籍の取得について著しい差別的取扱いを受けているものといわざるを得ない。】

上で述べた②の場合は非嫡出子でも日本国籍が取得できるのに、同じ非嫡出子の⑤の場合には取得できないのは差別的取扱いを受けているものだと述べています。他にもいろいろ述べて、憲法違反の認定をしました。

【したがって,上記時点(註・平成17年)において,本件区別は合理的な理由のない差別となってい
たといわざるを得ず,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,憲法14条1項に違反するものであったというべきである。】

次は、原告の救済方法についてです。

憲法14条1項に基づく平等取扱いの要請と国籍法の採用した基本的な原則である父母両系血統主義とを踏まえれば,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知されたにとどまる子についても,血統主義を基調として出生後における日本国籍の取得を認めた同法3条1項の規定の趣旨・内容を等しく及ぼすほかはない。(中略)日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子は,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分を除いた国籍法3条1項所定の要件が満たされるときは,同項に基づいて日本国籍を取得することが認められるというべきである。】

よって、高裁の判決を破棄し、第一審判決を維持しました。

【裁判官横尾和子,同津野修,同古田佑紀の反対意見,裁判官甲斐中辰夫,同堀籠幸男の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官泉徳治,同今井功,同那須弘平,同涌井紀夫,同田原睦夫,同近藤崇晴の各補足意見,裁判官藤田宙靖の意見がある。】

もっとも、この判断に関しては5人の裁判官の反対意見もついています。最高裁判所の裁判官は15人ですから(裁判所法5条1項・3項)、二審判決(原告敗訴、国勝訴)を破棄する結論に賛成した裁判官は10名ということになります。賛成:反対=10:5という結果でした。反対意見の5人のうち、横尾和子、津野修、古田佑紀の3人の裁判官は、国籍法3条1項は憲法に違反しないという合憲論でした。横尾裁判官は、わが国2人目の女性最高裁裁判官ですが、出身は行政官です(社会保険庁長官も務めたことがあったので、昨年の年金について話題になりましたが、特にコメントは出さなかったようでした)。津野裁判官も同じく行政官出身、古田裁判官は、検察官出身です。

反対意見の3人は、特に多数意見の「合理的関連性」が失われたという点を批判しています。

【…家族生活や親子関係に関するある程度の意識の変化があることは事実としても,それがどのような内容,程度のものか,国民一般の意識として大きな変化があったかは,具体的に明らかとはいえない。実態の変化についても,家族の生活状況に顕著な変化があるとは思われないし,また,統計によれば,非嫡出子の出生数は,国籍法3条1項立法の翌年である昭和60年において1万4168人(1.0%),平成15年において2万1634人(1.9%)であり,日本国民を父とし,外国人を母とする子の出生数は,統計の得られる昭和62年において5538人,平成15年において1万2690人であり,増加はしているものの,その程度はわずかである。このように,約20年の間における非嫡出子の増加が上記の程度であることは,多数意見の指摘と異なり,少なくとも,子を含む場合の家族関係の在り方については,国民一般の意識に大きな変化がないことの証左と見ることも十分可能である。】

【非準正子についても我が国との密接な結び付きを認めることが相当な場合を類型化して国籍取得を認めるなど,届出による国籍取得を認める範囲について考慮する余地があるとしても,国籍法が,準正子に届出による国籍の取得を認め,非準正子は帰化によることとしていることは,立法政策の選択の範囲にとどまり,憲法14条1項に違反するものではないと考える。】

なかなか読み応えのある反対意見となっています。

反対意見の5人のうち甲斐中辰夫、堀籠幸男の裁判官の2人は、「合理的な関連性が失われた」とする多数意見には同調します。ですから、合憲論ではなく、違憲論です。

【遅くとも,上告人らが法務大臣あて国籍取得届を提出した当時には,合理的な理由のない差別となっており,本件区別は同項に違反するものであったと考える。その理由は,多数意見が4で述べるところと同様である。しかしながら,違憲となるのは,非準正子に届出により国籍を付与するという規定が存在しないという立法不作為の状態なのである。多数意見は,国籍法3条1項の規定自体が違憲であるとするものであるが,同規定は,準正子に届出により国籍を付与する旨の創設的・授権的規定であって,何ら憲法に違反するところはないと考える。多数意見は,同項の規定について,非準正子に対して日本国籍を届出によって付与しない趣旨を含む規定であり,その部分が違憲無効であるとしているものと解されるが,そのような解釈は,国籍法の創設的・授権的性質に反するものである上,結局は準正子を出生後認知された子と読み替えることとなるもので,法解釈としては限界を超えているといわざるを得ない。】

違憲の判断なのに、多数意見には反対するとはどういうことかというと、⑤のケースについて、国籍を与えるという法律の規定が「ない」ことが憲法違反だということです。⑤のケースについて法律を作るのは国会の仕事であるから、裁判所が⑤のケースの子に国籍を与えて救済することはできないという理屈です。多数意見は3条1項(④の場合)が違憲だから、本件のような⑤の子にも国籍を認めましたが、それは立法府である国会の仕事であって、司法府である裁判所のすべきことではないと批判しています。これは、三権分立の原理に反してしまうとの考え方です。

【司法の使命は,中立の立場から客観的に法を解釈し適用することであり,本件における司法判断は,「本件区別により不合理な差別的取扱を受けている者の救済を図り,本件区別による違憲の状態を是正することが国籍法3条1項の解釈・適用により可能か」との観点から行うべきものであるからである。】

【多数意見は,国籍法3条1項の規定自体が違憲であるとの同法の性質に反した法解釈に基づき,相当性を欠く前提を立てた上,上告人らの請求を認容するものであり,結局,法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって,実質的に司法による立法に等しいといわざるを得ず,賛成することはできない。】

このように、2種類の反対意見が付いていますが、多数意見のほうも、「補足意見」と「意見」がついています。ずいぶん最高裁の中でも激論したことがわかります。補足意見とは、多数意見の結論と理由に賛成し、さらに意見を述べることで、本判決では泉徳治裁判官(裁判官出身)、今井功裁判官(裁判官出身)、田原睦夫裁判官(弁護士出身)、近藤崇晴裁判官(裁判官出身)の4つの補足意見がついています。今井補足意見に、那須弘平裁判官(弁護士)、涌井紀夫裁判官(裁判官)が同調しているので、10人の多数意見のうち、6人が補足意見を書いて反対意見に対して反論しています。また、藤田宙靖裁判官(大学教授出身)は「意見」を書いています。「意見」は、多数意見の「結論」には賛成するけれど、「理由」には反対するというもので、行政法学者らしく、法解釈論を展開しています。

とにかく、いろいろを興味深い判決です。法的な争点としては、①国籍法3条1項は憲法14条1項に違反するか、②仮に、違憲だとした場合に3条1項に基づいて、裁判所が生後認知しか受けていない子供(父親が日本人で母親が外国人、両親は婚姻関係にない)に日本国籍を付与することは許されるか、の2点でしょう。

おそらく、法改正がなされるでしょうから、その場合、偽装認知によって国籍が与えられることが予想されます。そういった影の部分にどう対応するかも今後の課題となるでしょう。

ちなみに、法令違憲の判決はこれで8件目です。過去7件はこちら。 

①最大判昭和48年4月25日刑集27巻4号547頁
刑法200条の尊属殺人罪が憲法14条1項(平等原則)に違反するとされた。

②最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁
薬事法6条(及び広島県条例)の距離制限が憲法22条1項(職業活動の自由)に違反すると認定。

③最大判昭和51年4月14日民集30巻3号223頁
昭和47年12月10日実施の衆議院選挙(第一次田中内閣)に関する議員定数不均衡訴訟。公職選挙法別表1、公選法付則7・8・9項の規定により、議員一人当たりの有権者比率は千葉1区:鳥取選挙区=4.99:1に及んでいた(当時は中選挙区制)。最高裁は、この規定を憲法14条1項違反と認定したが、事情判決の法理を用いて選挙自体は無効とはしなかった。

④最大判昭和60年7月17日民集39巻5号1100頁
昭和58年12月18日施行の衆議院選挙(第一次中曽根内閣)に関する議員定数不均衡訴訟。議員一人当たりの有権者数比率は1:4.40となっており、最高裁憲法14条1項に違反するとの判断をした。もっとも、事情判決の法理により選挙自体は無効とはならなかった。

⑤最大判昭和62年4月22日民集41巻3号408頁
森林法186条による共有分割制限規定が、憲法29条2項(財産権)に違反すると判断した。

⑥最大判平成14年9月11日民集56巻7号1439頁
郵便法68条・73条による損害賠償責任免除・制限規定が憲法17条(国の賠償責任)に違反して無効であるとした。

⑦最大判平成17年9月14日民集59巻7号2087頁
在外国民(国外に居住していて、国内に住所を有していない日本国民)は、衆参比例区でしか投票できないとしていた(小選挙区では投票できない)公職選挙法付則8項を、憲法15条1項・3項(選挙権)、43条1項(全国民の代表)、44条ただし書(選挙人の資格)に違反すると認定した。

昭和22年8月4日に始まった最高裁判所が出した違憲判決は今回のも入れると8つ。62年間で8個は遠慮して少ないのか、多いのかわかりませんが、立法府たる国会に対して明確に意見を示したものと評価できると思います。もっともその結論・理由の判断の是非はまた別の問題ですけどね。

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人権擁護法案における法的問題点(3)

2008/05/30 21:00

 

本日、自民党の人権問題調査会が開かれ、「人権擁護法案」を修正する太田私案が示されたそうです。その内容を記事より引用してみました。

【目的】
・法の支配の下で人権紛争を解決する

【人権救済対象の限定】
 ・人権侵害の類型を列挙し、それらだけを救済対象とする
  類型の例:(1)公務員、事業者や雇用主が行う差別的取り扱い(2)公務員による虐待、児童虐待、施設内虐待(3)反復して行う差別的言動

【制度乱用の防止】
 ・勧告など申し立てられる側に不利益となる措置は、対象を不法行為に限定
 ・申し立て自体を不当として対抗措置をとれる制度を創設
 ・学術上の論議、歴史上の事象、宗教上の教義についての見解を根拠、前提とした被害の申し立ては救済対象から除外

【その他】
 ・差別的言動に対する人権委員会の調査を拒否しても、過料は科さない
 ・報道機関を特別扱いせず、メディア規制条項は削除
 ・人権擁護委員は現行制度を維持(委員から外国人は除外)

「人権侵害」の定義を明確にしようとしたようですが、結局「例示列挙」にとどまっており、一般的な定義規定をおくのは難しいようです。

不服申立ての救済制度を設けるのはよいことですが、問題の人権擁護委員の権限が大きすぎる点に修正はないようです。

すなわち、人権擁護委員は、「当該人権侵害等が現に行われ、又は行われた疑いがあると認める場所に立ち入り、文書その他の物件を検査し、又は関係者に質問すること」ができます(44条1項3号)。国家が住居に侵入することは、住居の不可侵を侵害することになるので、令状がない限り、認められないということになります(憲法35条1項)。人権委員会の立ち入りは、令状なしに住宅への侵入を許すことになり、憲法35条の令状主義の精神を完全にないがしろにしています。

政治な見方をすると、人権委員会という「独立委員会」(国家行政組織法3条2号)を設置することになりますので(法務省からは完全に独立した機関となる)、政治家と官僚・職員との間で新たな利権を生み出すことになると思います。まあ、法案成立に向けて動いている政治家を見れば、どんな法律家はわかりますけどね。共産党は、法案に反対らしいので、応援します(笑)

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訴訟物論争

2008/04/27 00:55

 

民事訴訟法学には「訴訟物論争」と呼ばれる最大の論点があります。従来の通説の実体法説(旧訴訟物理論)に対して訴訟法説(新訴訟物理論)が攻勢を仕掛けるという形で、とりわけ昭和30年代に学会で激しく議論されました。

「訴訟物」というのは「審理の対象」のことです。裁判所が何について裁判をするのかが特定されていないと、裁判所も不都合ですし(246条参照)、被告が防御に困ります。

実体法説によれば、【実体法上の個別的・具体的な権利】が訴訟上の請求(訴訟物)ということになります。例えば、原告が貸したお金を返す訴訟を提起した場合、裁判所は「消費貸借契約に基づく貸金返還請求権」を審理することになります。実務(判例)がこの考え方にたっています。実体法説では「売買契約に基づく代金支払請求権」や「債務不履行に基づく損害賠償請求権」といった権利が訴訟物になりますが、訴訟法説(新訴訟物理論)が正しいと思っている人は、請求権競合の場合に都合が悪いと反論します。

例えば、電車に乗っていて、鉄道事故を起こされ怪我をして鉄道会社に損害賠償請求をするといった場合を考えてみましょう。この場合、実体法説では、①「旅客運送契約の債務不履行に基づく損害賠償請求」と②「不法行為に基づく損害賠償請求」という2つの法的主張が考えられます。仮に①債務不履行に基づく損害賠償を提起して敗訴した場合、既判力は②不法行為に基づく損害賠償請求には及ばないので、敗訴した原告はその後に②不法行為に基づく損害賠償訴訟をもう一度提起できることになって、紛争の一回的解決の観点から問題があると主張するのです。

そこで、実体法上の権利からは離れて訴訟物を考える学説が表れます。これが訴訟法説(新訴訟物理論)で、この見解では【相手方から一定の給付を求めることができる法的地位(受給権)】が訴訟物となります。上の鉄道事故の例では被害者の鉄道会社に対する「損害賠償を求めることができる法的地位」が訴訟物となります。ここでは債務不履行だとか不法行為だとかの実体法における権利は関係なく、実体法説よりも訴訟物の範囲が広がることになります。この見解は学会でも支持を得て、民事訴訟法学者における多数説になりました。現在では伊藤眞(東大教授であって、伊藤塾の伊藤真ではない)が実体法説(旧訴訟物理論)を採用しているくらいで、他の学者はおおむね訴訟法説(新訴訟物理論)にたっているらしいです。

「訴訟物とは何か」という命題をなぜ一生懸命議論するこというと、訴訟物が決まれば、訴えの併合(136条)、重複訴訟の禁止(142条)、訴えの変更(143条)、既判力の客観的範囲(114条1項)などの問題もすべて解決すると考えられていたからです(訴訟物の4つの試金石)。訴訟物が民事訴訟の背骨で、訴訟物さえ決まれば他の問題も一気に片付くとの見解は、現代になっては完全に崩れてしまいました。例えば、重複訴訟の禁止をあげると、別に訴訟物が異なる場合でも、審理が矛盾することを防ぐという制度趣旨からすれば二重の訴訟を禁止すべきではないかとの考えが多数説だからです(例えば、原告の被告に対する土地の所有権確認の訴えが提起された後に、被告が別の裁判所に原告に対する同じ土地の所有権確認訴訟を提起した場合)。

そこで、次第に訴訟物論争は収束し、平成になってからはほとんど議論されなくなりましたが、教科書には載っているので、学生は勉強することになります。民事訴訟法を教えてくれる教授は学者なので、たいていの人が訴訟法説(新訴訟物理論)を採用しています。ですから、なるほど、訴訟法説(新訴訟物理論)もよく考えられた理論だなぁと感心することになります。

ところが、今年から裁判官や弁護士さんによる講義を受けるようになりました。そこでは、当たり前のように実体法説(旧訴訟物理論)を前提にして授業が進んでいきます。

なんでも、裁判官によると、
①実体法説(旧訴訟物理論)で困ったことはない
②具体的な権利が訴訟物(審理の対象)になるのだからわかりやすい
とのことです。ですから、「訴訟物は何ですか?」と聞かれたら「売買契約に基づく目的物引渡請求権」と実体法説(旧訴訟物理論)で答えなければなりません。

民事訴訟法の先生は、「法科大学院では新訴訟物理論(訴訟法説)は評判が悪い」とはっきりおっしゃっていました。LSは実務化養成のための教育機関ですから、言ってしまえば、実務で使っている実体法説(旧訴訟物理論)を理解すれば十分で、学生は訴訟法説(新訴訟物理論)になんて興味がありませんからね。学者先生が一生懸命考えた理論であっても、やはり机上の空論なんでしょうか、所詮は現場で支持されない学説なのです。

訴訟物論争においては実体法説=実務(判例)、訴訟法説=学説という対立ですが、他の分野、他の法律においても判例と実務とが鋭く対立しているところが多々あります。学部時代は何々先生のこの学説がいいとか思って平気で判例とは違う考え方をとっていましたが、LSでは判例の重要さを学んでいるので、正直「学説なんて知らね」という認識です。さらに実務家の授業も受けている今では判例様々ですね。

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名古屋高判平20年4月17日判例集未搭載に関する一考察

2008/04/18 23:21

 

本日の朝刊各紙は昨日の名古屋高裁判決についてかなり大きく紙面を割き、扱っていました。自衛隊イラク派遣差止めや損害賠償を求めた訴訟において、「憲法違反」の判断がなされたからです。主要5紙をざっと図書館で読んでみましたが、各紙はだいたい以下のような反応でした。

朝日:自衛隊派遣の違憲判断は大歓迎。福田首相・安倍前首相・小泉元首相は反省すべき。
毎日:政治が自衛隊派遣に関してもっと説明責任を果たすべき。
読売:違憲の判断は判決の「傍論」でなされたものであるから疑問が残る。
産経:違憲の判断は完全に“蛇足”である。
日経:一面では扱っておらず、経済にしか興味がない。

賛成の朝日・毎日と反対の読売・産経という構図はよくあることですね。

さて、肝心の高裁の判決について検討してみたいと思います(まだ判決全文が入手できていないので、朝日新聞に掲載されていた「イラク派遣差し止め訴訟 控訴審判決要旨」をコピーしました)。

原告は、①航空自衛隊の空輸活動について憲法に反することの確認、②空輸活動の差止め、③平和的生存権が侵害されたとして損害賠償を請求しました。

判決は、まず自衛隊のイラク派遣が違憲であるということを述べています。以下、簡単にまとめてみます。

イラク特措法によれば、「非戦闘地域」において人道復興支援活動、安全確保支援活動を実施することになっているが、首都バグダッドは米軍がシーア派スンニ派の武装勢力を掃討する作戦をたてており、武装勢力も相応の兵力で対抗しているから、「戦闘地域」に該当する。航空自衛隊の空輸活動が、武力の行使に該当しないとしても、多国籍軍の武装兵員を定期的に確実に輸送しているといえ、他国による武力行使と一体化した行動で航空自衛隊自らも武力の行使を行ったとの評価をうけざるを得ない。よって、航空自衛隊の空輸活動は、武力活動を禁止したイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した2条3項に違反し、憲法9条1項に違反する活動を含んでいる。】

要するに、航空自衛隊の活動の一部について憲法9条違反の認定をしたということです。

次に、平和的生存権を「戦争と軍備及び戦争準備によって破壊されたり侵害ないし抑制されることなく、恐怖と欠乏を免れて平和のうちに生存し、また、そのように平和な国と世界をつくり出していくことのできる核時代の自然権的本質をもつ基本的人権である」と定義し、それは「単に憲法の基本的精神や理念の表明にとどまるものでな[く]…平和的生存権は憲法上の法的な権利として認められるべできある」と、具体的権利性を肯定しました。

しかしながら、最後に①②の請求は不適法であると述べています。

【本件の①違憲確認請求は、ある事実が抽象的に違法であることの確認を求めるもので、およそ現在の権利または法律関係に関するものとはいえないから、同請求は確認の利益を欠き不適法だ。行政権の行使に対し、私人が民事上の給付請求権をもたないことは確立した判例で、②差止め請求は不適法だ。】

「確認の利益」とは確認訴訟における訴えの利益のことです。なんでもかんでも法律関係を確認する訴えを認めることはできませんので、法律上の具体的争いでなければ訴訟できません。つまり、「この活動が法律に違反する」という主張は抽象的な訴えなので、却下されることになります。

そして、「控訴人[原告]らの具体的権利としての平和的生存権が侵害されたとまでは認められず、損害賠償請求において認められるに足りる程度の被侵害利益が生じているということができない」として③損害賠償請求を棄却しました。

結局のところ第一審と結論は同じです。つまり、原告敗訴、国の勝訴です。ですから、国は上告することはできません。

本来であれば「却下」は門前払いですので本案審理に入ることはありません(訴えの利益は訴訟要件)。ですから、このような結論をとるのであれば、憲法に違反するという部分について司法は判断をくだすことはありません。とりわけ、自衛隊の派遣というような高度に政治性を有する問題については、司法部である裁判所は憲法判断を回避するのが通常です(最大判昭34年12月16日刑集13巻13号3225頁[砂川事件]、最大判昭35年6月8日民集14巻7号1206頁[苫米地事件]など)。というのも、裁判官は選挙で選ばれた人ではありませんから、政治的な判断を避け、政治問題については国民から選ばれた国会議員で構成される国会に任せるべきであると考えられているからです(いわゆる「統治行為論」。三権分立を害さないように「司法消極主義」の立場を採るのが通常)。

しかし、今回の判決は、本案の審理に入ることはできないのに、堂々と憲法論を展開しています。しかも、違憲の認定をしながら、結論は国の勝訴という判断をしたために、論理的に一貫しないものとなっています。違憲の判断がなくても、国側の勝訴の結論には変わりはないですから、違憲の判断の部分は「傍論」にすぎません。「傍論」を含む判決理由については、拘束力(既判力)はありませんから(民事訴訟法114条1項で主文のみに既判力が生じる)、違憲の判断に関して法的拘束力はありません。しかも、最高裁の判断ではなく、あくまで下級審の判断ですから、法的にはまったくたいしたことはありません。

しかしながら、違憲と判断されることは政治的あるいは社会的な影響はたいへん大きいものです。この青山邦夫裁判長は、上告を封じるためにそのことをわかってて判決書いたのでしょう。司法積極主義にたって、政治分野にも意見を述べたかったのでしょうか。判決理由に結論とは関係のないことを書くのは、裁判官の越権行為あるいは司法権の濫用だとして、訴訟を起こせないものでしょうか。たぶん具体的な争訟性がないので無理ですね。青山裁判官は、4月1日より名城大学法科大学院に赴任したため、すでに依頼退官しており、判決期日には高田健一裁判長が判決を代読したそうですよ。

国の弁護士の立場だったとしたら、「違憲」とされた部分には納得がいかないので最高裁に上告したいと思うでしょう。しかしながら、勝訴してしまっているので、上訴の利益がなく、上訴の申立ては不適法却下されるに違いありません。そうすると、敗訴した原告が上告しない限り判決は確定することになります。一般にこの手の原告は、裁判所が違憲と言ってくれることを期待して政治的に法廷を利用するだけの人ですので、上告することはありません。これって問題じゃありませんか。政治的にじゃなくて、法的にですよ。

憲法81条によれば、憲法問題について最高裁が最終的に判断することになっていますが、本件ではこれが守られていません。また、国側の裁判を受ける権利(32条)も侵害されてはないでしょうか。ただ、「違憲」の部分は傍論のため、法的拘束力はありませんから、上訴する法的利益はありません。この「利益」に社会的・政治的利益も含むと解釈すれば訴えの利益はあることになるでしょう。最近の学説では32条を見直す見解もあったと思うので、「利益」の概念を拡張できるかもしれません。

実は今日の公法演習が終わった後に、名古屋高裁の判決について憲法の先生に尋ねてみました。
私「上訴できないということは、国側の裁判を受ける権利を侵害することになりませんか?」
先生「おもしろいねえ!」
私「ちょっと無理がありますかねぇ?」
先生「この問題についてはこの後もいろいろ議論がでるだろうから、考えておくといいよ。」

なかなかの好反応でした。結局のところ、「判決理由において結論と関係のない意見(傍論)を述べるのが違法」ということの根拠付けに、憲法32条、81条を使うことになるのでしょう。今後もこの問題について見当を加えていきたいと思います。

参照:過去の憲法9条違反の判断をした裁判例は2つのみ。本判決は3例目。
①東京地判昭34年3月30日下刑集1巻3号776頁(砂川事件第一審)
自衛隊の存在を違憲としたが、最大判昭34年12月26日刑集13巻13号3225頁は合憲の判断をした。
②札幌地判昭48年9月7日判時712号24頁(長沼事件第一審)
自衛隊の存在を違憲としたが、札幌高判昭51年8月5日行集27巻8号1175頁は統治行為論を適用し、憲法判断を回避。

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2年目

2008/04/15 23:40

 

法科大学院2年目に入りました。だんだん歳をとっていきますね。

授業は、講義ではなく演習がメインになり、判例を一審から丁寧に読むことが必要になってきました。なかなか予習に時間がかかりますが、手を抜かずに根気よく取り組んでいかなければなりません。

また、法曹の実務科目として、法曹倫理と民事訴訟実務の基礎の2つの科目も履修しています。法曹実務は弁護士の方に、民訴実務は裁判官の方の講義を受けています。これまで大学教員の講義しか受けたことのなかった私にとっては新鮮で驚きの連続です。

弁護士の方はとにかく熱血といいますか、お話好きで人間味溢れる方です。面倒見意がよさそうな気がします。自らの真理や哲学を明確に持って生きていらした印象を受けます。団塊の世代の方ですから、いろいろ競争も激しかったのでしょう。

それに対して裁判官の方はとにかく冷静で落ち着いた雰囲気がします。40歳程度の方でしょうが、品のある感じがします。「学者はあれこれ言ってますが裁判実務ではこうですよ」、というような発言は研究者教員からは絶対に聞けない発言ですので、現場の空気を知ることのできる実務家教員の講義は貴重ですね。

また、司法試験の選択科目にあわせて経済法の講義もとっています。学部時代に一応習ったのですが、3年もたつとすっかり忘れてしまっていますね。ちゃんと思い出さないと。

さあて、LS2年目も頑張りますか~!!

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人権擁護法案における法的問題点(2)

2008/02/15 19:02

 

遅くなりましたが、前回の記事(19/12/05)の続きです。
(1)はこちら
http://muromachi.iza.ne.jp/blog/entry/413577/

5条では、国家行政組織法3条2号に基づいて、法務省所轄の「人権委員会」を設置することが規定されています。「人権委員会」は「行政委員会」のひとつということになります(行政委員会の代表例は「公正取引委員会」「教育委員会」)。行政委員会は、行政庁として権限を行使することが予定されているので、各府省の大臣(法務大臣とか国土交通大臣とか)や地方公共団体の長(大阪府知事とか京都市長とか)と並ぶ存在にあります。行政委員会の最大の特徴は、通常の行政組織から独立している点です(人権擁護法案7条)。そのため、法務大臣の指揮命令権が人権委員会に及ぶことはありません。

この行政委員会の制度は占領期にアメリカから導入されたものですが、憲法65条に反するのではないのかとの議論もありましたが(65条によれば行政権が内閣に属さなければならないが、行政権を行使する行政委員会は内閣から独立している)、合憲と解釈するのが一般的です。政治的中立性を確保できることに行政委員会制度の利点がありますが、行政の能率性の確保、行政責任の原則などの見地からの批判もあり、その後、多くの委員会が廃止されたり、審議会に改組されたりしました(例、電波監理審議会)。行政委員会を消極的なものと捕らえる流れの中で、人権委員会を設立する合理性は果たして十分なのでしょうか?

9条によると、人権委員長・人権委員は、「人格が高潔で人権に関して高い識見を有する者であって、法律又は社会に関する学識経験のある者」から選ばれるそうです。 人権委員に国籍条項がないので、日本国籍を有しない者(=外国人)が人権委員になることができます(人権擁護委員についても同様に国籍条項がないのか?22条3項は「住民」とあるので、この解釈を巡って争うがありそう…)。一般に、国政への参加の基礎を「国籍」に求めることは各国共通の理解でありますので、国籍を持たない者が行政権を行使することになると、国民の自己決定の原則に反することになるという原理的な問題を抱え込むことになります。簡単に言えば、外国人を人権委員に任命することは「“国民”主権」に違背してしまう可能性があるわけです。

実際に人権が侵害されたときにどうすればいいかというと、38条以下です。人権侵害を受けた人は誰でも、人権委員会に申し出て、「救済してくれ」と求めることができます(38条1項)。この申し出を受けた人権委員会は必要な調査をします(38条2項)。被害者からの申し出がなくとも、必要があるならば、人権委員会は調査をし、適当な措置をとることができます(39条1項前段)。人権委員会は、具体的に①必要な助言、関係行政機関・団体への紹介、法律扶助に関するあっせん(41条1号)、②加害者等に対し、当該行為に関する説示、人権尊重の理念に関する啓発その他の指導(41条2号)、③被害者等と加害者等との関係の調整(41序3号)、④関係行政機関に対し人権侵害の事実を通告(41序4号)、⑤犯罪に該当すると思料される人権侵害について告発(41条5号)という措置をとることができます。①~④はどれも法的拘束力なさそうですので、行政行為にはあたらず(処分性がないので、行政事件訴訟法の抗告訴訟は使えない)、行政指導などの事実行為にとどまることになると思います。⑤は場合によっては捜査の端緒になるでしょうね。

ここまでは一般救済手続ですが、3条1項【国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い】のようなひどい人権侵害が起こった場合は、非常救済手続きとなります(42条・43条)。その場合、人権委員会は次のような措置をとることができます。 ①「事件の関係者に出頭を求め、質問すること」(44条1項1号)、②「当該人権侵害等に関係のある文書その他の物件の所持人に対し、その提出を求め、又は提出された文書その他の物件を留め置くこと」(44条1項2号)、③「当該人権侵害等が現に行われ、又は行われた疑いがあると認める場所に立ち入り、文書その他の物件を検査し、又は関係者に質問すること」(44条1項3号)。

さあて、ここがこの法案の最大の問題点です。③「場所に立ち入り、文書その他の物件を検査」のところに注目です。人権委員会には重大な人権侵害が起こったら、加害者の家に勝手に入って物件検査する権限が与えられています。たいしたことのないような規定かもしれませんが、警察が被疑者の家に踏み込み、覚せい剤を差し押さえるという場合と比べてみてください。犯罪捜査の場合(現行犯除く)、被疑者の家に立ち入ったり、物を押収する場合には裁判官の令状が必要です(刑訴218条1項前段、例外は220条1項3項)。行政府の警察官が、司法府の審査をわざわざ受けてなければならないのは、国民の個人としての側面を尊重し、私生活を保護しているからです。すなわち、国家は、国民の個人としての私生活をも尊重しなければならないため(憲法13条前段)、住居の不可侵が保障されなければなりません。国家が住居に侵入することは、住居の不可侵を侵害することになるので、令状がない限り、認められないということになります(憲法35条1項)。人権委員会の立ち入りは、令状なしに住宅への侵入を許すことになり、憲法35条の令状主義の精神を完全にないがしろにしています。人権擁護法案44条1項3号は、たぶん誰しもが認める憲法違反の規定であり、この法案の重大な欠陥だと思います。

63条では人権委員会の訴訟参加が認められていますが、これは加害者側に著しく不利になるのではないでしょうか。

法案を見た感じ、人権委員会のした行為に対する不服申立て(例えば、加害者とされた人が、「行政委員会の勧告はおかしい」と文句を言う)の手段の規定がないようです。行政不服審査法及び行政事件訴訟法の適用があるという理解でよいでしょうか。しかし、人権委員会の勧告には処分性がないので、行訴法3条1項の「行政庁の公権力の行使」にあたらず、結局不服があっても訴訟で争えないことになるんでしょうか。あ、行訴4条後段の実質的当事者訴訟が使えるのでしょうか、ちょっとわかりません。

いろいろ述べたように、この法案は問題点が多く、人権を守ろうとする人権委員会がかえって人権を侵害するという可能性が強いと思います。この法案が成立しないことを強く願っているので、反対派の自民保守系・民主保守系議員を応援します。

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民訴

2008/02/05 16:32

 

過去問チェック民事訴訟法編です。

1.04年度
(1)裁判所の管轄
(2)間接事実の自白の撤回
(3)陳述擬制・被告の欠席
(4)釈明権
(5)任意的訴訟担当

2.05年度
問題1:訴えの提起・訴状
問題2:訴状の書き方
問題3:争点整理の方法
問題4:証明責任と主張が無かった場合の効果

3.06年度
問題1:請求のl趣旨及び請求の原因
問題2:裁判所の管轄
問題3:証明責任
問題4:二重起訴の禁止

講義は「判決の効力」まで終わっていませんので、前半部分からの出題が多くなるでしょう。いずれの年も、事例があって、それに関連する小問を設けるという形式で出題されています。中間試験での出来がいまいちでしたので、期末試験はよい成績を修めたいです。

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